都市と公園

東京の公園について調査中です。暫定的な結論は間もなく。

渋谷[調査結果-6]

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渋谷駅


[基準駅]東京急行電鉄東横線田園都市線東京メトロ銀座線、半蔵門線副都心線京王電鉄井の頭線・JR山手線渋谷駅
[調査範囲]渋谷1-3、東1-2、猿楽町の東部、鶯谷町、鉢山町、南平台町の東部、桜丘町、道玄坂、宇田川町、神南1、神宮前5、6の一部
[調査した公園]
神南1:北谷、神宮前5:神宮前5丁目、神宮前6:宮下*(工事中)、神宮通、渋谷1:美竹、渋谷3:(金王八幡横)、並木橋児童遊園地*、東1:常盤松、東2:氷川の杜、氷川みかん、氷川つるかめ、鶯谷町:鶯谷児童遊園地、鉢山町:鉢山、猿楽町:猿楽古代住居、

*のついた公園について、今回実地調査は行っていない。

渋谷は、渋谷川稲荷橋を基準として、宇田川―渋谷川の東・西岸に、また都道246号線(青山通り玉川通り)を基準に南北にそれぞれ分けて、大きく四つに分類できる。

α 東岸北部(神南・神宮前・渋谷(北部)・宇田川町(東部)など)

β 西岸北部(道玄坂・松濤・神山町・円山町・神泉町・宇田川町(西部)など)

γ 西岸南部(桜丘町・南平台町・鶯谷町・鉢山町・猿楽町など)

δ 東岸南部(東・渋谷(南部)など)

α 東岸北部

区役所(仮庁舎)、郵便局、国連大学等、渋谷の中心地であることに変わりはないが、百貨店や服屋などの商店が所狭しとならぶ、渋谷と言って想起される繁華街(β)とは異なる。勿論、宇田川(現・井の頭通り)方面、特に山手線外へ出ると渋谷らしい賑わいがある。区役所本庁舎やNHK放送局はこちらの山手線外にある。
昼夜間人口を調べてみると、渋谷1-3がそれぞれ昼夜間人口比率が1,151.7 、4,480.3、2,375.2 と100を遥かに超えている。このためか、αに属する北谷、美竹といった公園は、やはり住人、子ども重視のものではなく、相対的に言って「空地に木とベンチを置いた」ような仕上がりである。これはδと比較すると差異があるので、確認されたい。
神宮前5,6の方へ行くに従っては住宅も増えるらしく(若しくは昼間人口が減るらしく)、昼夜間人口比率がそれぞれ345.1 、998.1となった。現に神宮前5丁目などの公園では少し遊具も見られる。神宮通と宮下の両公園については、来訪者が通行する広場のような体である。
なお、宮下公園については近年幾らか騒動が起きており、この原因は公園というものに対する役所・企業・民衆の見方の違いから生まれているようであるから、詳細な調査を後に記す。

β 西岸北部

ハチ公像・モヤイ像・スペイン坂・センター街・文化村通り・道玄坂や「スクランブル交差点」など、渋谷と言って想起されるものの全てはこの区域に属する。宇田川町・道玄坂1を中心に昼間は極端に人が集まる地帯で、昼夜間人口比率は道玄坂、宇田川町、神南1で4397.8、3104.1、2125.3とαを大きく上回る。そのためか、そもそも公園が少ない。実際、調査範囲の周囲で、βには円山町児童遊園のただ一つしか所在しなかった。またそれも駅から遠いもので、直線距離で300m以上離れている。α、γ、δでは概ねが駅から200m付近にあるから、一つの特徴と言えよう。

また、これは「考え過ぎ」と言われても仕方があるまいが、この公園の少なさには代々木公園や明治神宮が関係している可能性も捨てきれない。というのも、事前調査の考察や銀座の調査結果でも扱ったように、緑地や避難先として使える広大な寺社地や都立公園などがあると、近隣公園・街区公園の設置数が同様な性質を持つ町と比較して減少する可能性がある(あくまで可能性である)。こう考えれば、同様に繁華街を持つ池袋に幾つかの中規模の区立公園があって、渋谷に一つもないのはこのためだとも思われる。今後の調査では「定性実験」のように「同様だが条件が一つだけ変化するような町」を二つずつ選択して比較調査していきたい。データを積み重ねるうちに公園に期待される役割というものが浮き出てくるだろう。

京王井の頭線神泉駅があるため、円山町児童遊園は渋谷駅の最寄りの公園として扱わなかった。この「基準駅」という概念の定義の甘さから調査範囲に含むか否かの判断が曖昧になってしまったのは今回の反省の一つである。しかし、今回の渋谷の調査では範囲そのものが縦長であるものの、αからδの四地域はほぼ同じ大きさであり、この分析に与える影響が少ないことは強調しておきたい。

γ 西岸南部

勿論ここも渋谷とあって駅の近くの賑わいや垢抜けた感じは垣間見えるが、δとともにどこか「麻布六本木の延長」と言った印象が拭いきれない。例えば六本木通りを溜池からずっと西進してきても渋谷ならではの華やかさがないので、渋谷に到着したことにあまり気がつかない。通り沿いで言えば六本木より見劣りがするほど。東京の昏さを持ち合わせていて、案外ディープなところかもしれない。駅の近くである桜丘町が1240.6であるのを除けば、範囲内の昼夜間人口比率は全て400を下回っている。十分大きい数値ではあるが、渋谷では相対的に少ないか。
夜間人口が多い、つまり住宅があるということである。裏付けるように、鉢山を筆頭としたγの公園は遊具の設置が成されていた。設計では子どもを想定していることになる。だが悲しいかな、やはり渋谷にあって公園は子どもが遊べるほど明るくなかった。これがδでは子どもは活潑に遊べるので、同じ南部でも差異が見つけられたことになる。
付近には西方に西郷山公園があるので、公園の需要は満たしているのかもしれない。反対に、南方には代官山が広がり、南北を繁華街に挟まれる形となっている。

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渋谷川

写真の通り、ここからは渋谷川の開渠区間なのだが、殺伐たる風景が広がる。東急電鉄は河岸をテラスなどへ再開発するよう計画しているようだ。

δ 東岸南部

γと似て華やかさには少し劣るが、γと決定的に違う点が挙げられる。それは、商業地・住宅の棲み分けができていることである。特に東などは住宅中心なので、きちんと公園が整備されている。調査した四地域の中で公園が一番多かったのはこのδであった。故に、来訪者・浮浪者・労働者・住人で混乱しているαと比べれば都市計画はよく成されており、住宅に特化した公園が設置できるのも事実だろう。調査した公園では、γに対して面積は劣ることはあっても、管理の成されたきれいな公園ばかりであった。αと比べても大きな違いである。
先程から出している昼夜間人口比率のデータでは、東1,2がそれぞれ260.6 、104.1とあり、氷川の杜公園等3つの公園が集中していた東2で住宅の比率が大きいことがわかる。 またγ最大の桜丘町と比較して、渋谷2の昼夜間人口比率は2,375.2なので駅近くでも賑わっているのは(南部では)こちらだと言える。
また、東1,2の人口の合計も、γの猿楽町、鉢山町鶯谷町の人口の合計もほぼ7000近くで互角であることが同じ資料からわかる。
まとめると、γとδとの比較で、
・γは住人が多いが、公園が少ない。
・δはγとほぼ同等の人口がありながら公園も多く、賑わっている。
となってしまう。
繁華街もなく立地も似通ったγ、δの二者間でこれほどの差が生まれるのはよくわからない。歴史的背景なのか都市計画の失敗なのか、その真偽はこの調査ではよく知れないが、しかし公園調査の上で重要な手がかりとなるだろう。

※前述と同様に、δには西郷山公園のような大きい公園が近接していなかった。これも公園数増加の原因かもしれない。

 

―参考文献―
※1 東京都統計局(調査実施:2010)「平成22年国勢調査による東京都の昼間人口 第11表 町丁・字等別昼間人口(推計)」

平成22年国勢調査による東京都の昼間人口


※2 産経デジタル(2017)「「宮下公園」 渋谷区とナイキ、命名権協定途中解約 名称変更実現せず 公園は閉鎖」、<http://www.sankei.com/life/news/170401/lif1704010003-n1.html,2018年2月22日閲覧>